水天宮の招き猫

ちょっと怪談風の、怪談でもなんでもない日常のお話。


池袋の東口に、小さな社があります。
御存知の方はあまり多くないかもしれませんが、東口の北側、東西の貫通路(短い地下道)があるのですが、そこから線路沿いに北に進んだところです。
名画座からも近く、セブンイレブンのすぐそば、ともいえます。
この社、池袋水天宮といいます。

昔は色々と心霊スポット扱いされていたようですが、自分が大学生の頃にこぎれいに改修されまして、小さな公園になっています。
そのど真ん中にこの水天宮があるわけです。

夜にちょっと通る用事(正確には、そこを通る必要は無かったのだけどなんとなくルートを変えていた)があったのですが、その時に公園の植え込みに動くものがいて、見てみたら一匹の猫がいる。
口笛吹いて呼びかけてみると、こっちをチラッと見て、しっかり止まる。
自分から手を伸ばすわけではないのですが、割と近くまで近づいても逃げないので、ちょっと考えてから、猫を置いてセブンイレブンに。
フランクフルトを購入し、かじりつつ戻ってみると、やはりというか、まだそこに猫がいる。
フランクフルトをちぎって、ひとかけら猫の近くにおいてみたのですが、なんとこの猫、肉には興味ないようで、肉ガン無視。
その代わりに、ちょっとこっちに近寄ってきました。
もうひとかけら近くにおいてみたのですが、それも無視して植え込みから出てきました。
なんか足元によってきて、こちらを見上げてじーっとしてます。
すねをこすらない程度の絶妙なポジショニング。

何ぞ慣れておるなぁ、としゃがんで見たら、とてとてと歩き出して、一メートルくらい間を空けてこっちを見る。
……なるほど、ついて来いとおっしゃいますか。


どっちかというと犬派(昔飼っていたので)だし、ここ掘れと吠えるのは猫ではなくて犬のはず。
そんなことを考えつつも猫に誘導されて数回の移動を繰り返し、たどり着いたのが先に書いた池袋水天宮の祠だったというわけです。
階段を上がって、賽銭箱の前にドンと居座ると猫は満足そうにあくびを一つ。

猫に招かれてしまったので、これはやられたなぁと思いつつ小銭を賽銭箱に投入したのでした。
招き猫は福を呼ぶものでしょうから、呼ばれた身としてはわずかなりとも福を出してやらんとね。
猫が営業活動する社ってのも、それはそれで面白いもんです。

……今考えると、あの猫一声も鳴いていなかったような気もするし、あの道は人通りがかなり少ないこともあって、コンビニの店員とか客以外は周囲には人がいなかった。
すわあの猫は一体何か、なんて考えるとそれはそれで面白いのですが、まぁ今更確認するにも遅く、確認したからといってなにかいいことがあるわけでもないのです。
猫キャバレー的な神社と考えると、それはそれで面白いんですが。